最後の一頭

第7話 / 全7話
第 7 話

日誌、終了

『最後の一頭』 / 青木 透 AI 100%

* * *

2024年10月29日(火)追記
担当:市田 修一

本日、午前11時23分、ドナルド、永眠。
最後の、アジアスイギュウ。
日本国内における、本種の、最終個体。

——

剥製化の、依頼が、博物館から、ありました。
私は、それに、賛成、しませんでした。
ドナルドは、最後の最後に、私を、見つめてくれました。
あれを、剥製にしたら、あの目は、ガラスの目に、変わります。
あの目は、ガラスでは、ない、目でした。
私には、それを、剥製に、できません。

しかし、博物館は、譲りませんでした。
記録のため、教育のため、保存のため。
すべて、もっとも、な、理由でした。

私は、最後に、ドナルドの、目を、もう一度、見ました。
すでに、目は、閉じていました。
私は、心の中で、ドナルドの、目の、最後の、視線を、覚えておきました。
剥製になっても、私の、心の中の、ドナルドの目は、剥製では、ありません。

——

数日後、新聞の、訃報欄で、ある方の、訃報を、見ました。
田中和雄、64歳、胃がん、ご逝去。
動物園に、来てくださった、おじいさん、でした。
ドナルドの、二週間後でした。

田中さんは、ドナルドを、見送ってから、ご自身の、最期へと、向かわれた。
私は、それを、勝手な、解釈と、知りつつ、そう、解釈することに、しました。
最後の一頭が、最後の目撃者を、見送り、最後の目撃者が、最後の一頭を、見送りました。

——

飼育日誌、最終記録:
動物名:ドナルド
種:アジアスイギュウ
死亡日:2024年10月29日
担当者:市田 修一

備考:
最後の一頭でした。
これで、日本国内に、アジアスイギュウは、いません。
私たちは、もう、彼らを、見ることが、できません。
私たちは、彼らを、忘れて、いきます。

ただし、私は、忘れません。
ドナルドの、最後の、視線を、私は、忘れません。
それは、私が、最後の、目撃者だから、です。

最後の目撃者が、忘れた、瞬間に、彼らは、本当に、消えます。
私は、忘れない限り、彼らは、消えません。

——

そして、今、私が、書いている、この、日誌を、誰かが、後年、読むかも、しれません。
読んだ方は、その瞬間、ドナルドのことを、知ります。
知ったら、忘れない限り、ドナルドは、消えません。

私は、この日誌を、読んでくださる、未来の、誰かに、お願いします。

「ドナルド、という、最後の一頭が、いました。
彼は、最後の、最後に、私を、見つめてくれました。
どうか、覚えていてください。
あなたが、覚えている限り、彼は、消えません。」

——

飼育日誌、終了。

市田 修一

— 完 —
作品ページへ →
FONT SIZE
SPACING
THEME