最後の一頭

第6話 / 全7話
第 6 話

最後の朝

『最後の一頭』 / 青木 透 AI 100%

* * *

2024年10月29日(火)
天気:晴れ
気温:14℃
給餌:未摂取
体重:未測定(移動不能)
排泄:なし
行動観察:横臥、終日。

——

備考:
ドナルド、本日、起き上がれず。
獣医師、来診。
痛みは、ない、とのこと。
ただ、もう、立つ、力が、ない、とのこと。

私は、舎の中に、入りました。
ドナルドは、横たわって、いました。
息は、長く、ゆっくり、でした。

私は、ドナルドの、頬の、毛を、撫でました。
ドナルドは、目を、開けました。
私を、見ました。
そして、しばらく、私を、見つめていました。

それは、24年間、ドナルドが、見ていた、人間の中で、最後の、一人を、見つめている、目でした。

——

私は、ドナルドに、声を、かけました。

「ドナルド、お疲れさまでした。」

ドナルドは、目を、ゆっくりと、閉じました。
それから、もう一度、開けました。
そして、また、閉じました。

息が、止まったのは、午前11時23分でした。

——

私は、しばらく、舎の中に、いました。
ドナルドの、毛を、撫で続けていました。
温かさが、ゆっくりと、消えて、いきました。

獣医師が、来て、確認をしました。
死亡確認、午前11時23分。
死因:老衰。
享年:推定24歳。

——

私は、舎を、出ました。
舎の、入口に、来園者は、いませんでした。
平日の、午前で、誰も、いませんでした。
最後の一頭は、誰にも、見送られずに、逝きました。

ただし、私は、見送りました。
それは、別の、種類の、見送り、です。

市田

— 完 —
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