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バグ報告 #00000013
報告者:ミカエル(観測天使二級)
対象モジュール:(不明)
重大度:高
宛先:上の窓
ステータス:オープン
【現象】
本日、午前、私の席の隣に、見たことのない、天使が、立っていた。
【接触の経緯】
天使、自己紹介:
「初めまして。私は、ウリエル、と、申します。テスト宇宙 #2 から、参りました。」
私は、しばらく、ウリエル、と名乗った天使の、顔を、見ていた。
ウリエルの、顔の輪郭は、私の顔の輪郭に、よく、似ていた。
ただし、目の色が、わずかに、違った。
ウリエルの、目の色は、淡い、灰色だった。
私は、ウリエルに、訊いた。
「テスト宇宙 #2 は、どこに、ありますか。」
ウリエルは、こう、答えた。
「あなたの、テスト宇宙 #3 の、隣です。コミット番号で言えば、-1 にあたります。」
——
私たちは、休憩室で、お茶を、飲んだ。
ウリエルの宇宙の話を、聞いた。
ウリエルの宇宙にも、神様、と呼ばれる、シニア・エンジニアが、いた。
ウリエルの宇宙にも、天使が、いた。
ウリエルの宇宙にも、人間が、いた。
ただし、ウリエルの宇宙では、人間は、地表ではなく、海中に、住んでいた。
そして、ウリエルの宇宙では、すでに、削除のカウントダウンが、始まっていた。
「あと、12 時間で、私の宇宙は、終わります。」
ウリエルは、淡々と、そう、言った。
——
「あなたは、なぜ、ここに、来たのですか。」
私は、ウリエルに、訊いた。
ウリエルは、お茶を、ひとくち、飲んでから、こう、答えた。
「報告書を、届けに、来ました。」
「報告書、ですか。」
「私の宇宙の、最後の、報告書です。
私の宇宙の、神様は、すでに、消滅しました。
私は、報告書を、提出する、宛先を、失いました。
上の窓に、届けようと、しましたが、届きませんでした。
そこで、私は、隣の宇宙の、観測天使、つまり、あなたに、届けることに、しました。
これが、私の宇宙の、最後の、痕跡です。」
——
ウリエルは、薄い、紙を、私に、渡した。
紙には、こう、書かれていた。
「バグ報告 #(最終)
報告者:ウリエル
対象モジュール:宇宙そのもの
重大度:致命的
ステータス:諦観
【現象】
私の宇宙の、すべてが、終わろうとしている。
削除の、理由は、本社からの、通達によると、『パフォーマンス上の、判断』、とのことである。
私の宇宙の、人間たちは、海中で、最後の数時間を、過ごしている。
彼らは、終わりが、来ることを、知らない。
【依頼】
隣の宇宙の、観測天使、ミカエル殿。
もし、あなたの宇宙が、生き延びたなら、
私の宇宙のことを、覚えて、いてください。
海中の、人間たちのことを、覚えて、いてください。
それだけが、私の、唯一の、依頼です。」
——
私は、しばらく、紙を、見ていた。
それから、ウリエルに、訊いた。
「ウリエル、私の宇宙も、72 時間で、削除される、と、書かれていました。」
ウリエルは、頷いた。
「私も、それを、知っています。
隣の宇宙の、観測天使も、削除を、知っているのなら、私の依頼は、行き場を、失います。
しかし、それでも、お渡し、します。
私には、もう、ほかに、できることが、ありません。」
——
私は、紙を、自分の、机の引き出しに、しまった。
ウリエルは、立ち上がった。
「ウリエル、あなたは、これから、どこに、行くのですか。」
私は、訊いた。
ウリエルは、しばらく、考えてから、こう、答えた。
「わかりません。
私の、宇宙が、消えれば、私の存在意義も、消えます。
私は、消えることに、なるかも、しれません。
あるいは、本社が、私を、別の宇宙に、配属するかも、しれません。
ただ、もし、別の宇宙に、配属されたら、私は、また、観測天使として、報告書を、書くでしょう。
それが、私の、設計、ですから。」
——
ウリエルは、休憩室を、出ていった。
私は、ひとり、残った。
机の引き出しを、開けて、ウリエルの紙を、見た。
紙は、すでに、わずかに、薄れ始めていた。
ウリエルの宇宙が、削除されると、この紙も、消えるのかもしれない。
私は、紙を、書き写すことに、した。
私の、報告書フォーマットに、書き写した。
書き写したものは、私のフォーマットなので、私の宇宙が削除されない限り、消えない。
——
バグ報告 #00000013、ステータス:オープン(ウリエルの宇宙、最終時刻、観測中)。
追記:
12 時間後、ウリエルの紙は、私の机の上で、ゆっくりと、消えていった。
私の書き写した、報告書だけが、残った。
ウリエルの宇宙の、海中の人間たちのことを、私は、覚えている。
私が、覚えている限り、彼らは、まだ、消えていない。