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2025年9月5日(金)
担当:中村みすず
立花さま、本日、ご機嫌よし。
朝、ベッドの上で、写真立てを、お持ちでした。
私が、お部屋に入ると、こうおっしゃいました。
「中村さん、ヒナタくんが、また、来てくれたのよ。」
写真立ての中の、若い男性のことを、立花さまは、毎日、新しく、思い出されます。
私:「ヒナタくんは、どなたですか?」
立花さま:「夫よ。」
私は、申し送り票を、見直しました。
ご主人は、富田源三さま、で、20年前にご逝去。
お名前は、ヒナタ、では、ありません。
しかし、私は、立花さまに、それを、お伝え、しませんでした。
立花さまの世界の中で、ヒナタくんが、夫であるなら、それは、立花さまの、本当のこと、なのだと、思いました。
——
夕方、娘さまが、ご来訪。
私、機を見て、娘さまに、お伺いしました。
「ヒナタくん、というお名前に、お心当たりはありますか?」
娘さまは、しばらく、考えてから、こう、おっしゃいました。
「母の、初恋の人だと、思います。」
「初恋の、人?」
「私が、子どもの頃、母が、酔うと、時々、その名前を、呼んでいました。
結婚前に、お別れした方、らしくて。
父は、ふたりが結婚する前に、亡くなった、と、聞いています。」
——
私は、ヒナタくんの、ことを、申し送り票には、書きませんでした。
書くと、別の看護師が、立花さまに、訂正してしまうかも、しれません。
立花さまの、世界の中で、ヒナタくんが、夫である方が、よいのです。
——
備考:
本日、立花さま、写真立ての、ヒナタくんに、こう、おっしゃっていました。
「ねぇ、また、桜を、見に、行きましょうね。」
ヒナタくんと、桜を、見たことが、あるのですね。
それを、立花さまは、毎日、新しく、思い出されます。
毎日、新しく、思い出される、ということは、毎日、初めて、思い出される、ということ、です。
立花さまは、毎日、初めて、ヒナタくんに、桜を、約束されているのです。
中村みすず