最後の一頭

第4話 / 全7話
第 4 話

『最後の一頭』 / 青木 透 AI 100%

* * *

2024年9月8日(日)
天気:雨
気温:18℃
給餌:牧草 12kg、青草 6kg、配合飼料 1kg
体重:734kg
排泄:やや、軟便
行動観察:横臥、立位、横臥、横臥、横臥。

——

備考:
ドナルドの、活動量が、低下しています。

夜間、舎に、見回りに行きました。
ドナルドは、横臥していました。
眠っているか、眠っていないか、わかりませんでした。
私は、舎の前で、しばらく、立っていました。

ドナルドは、私のことを、見ていませんでした。
ドナルドは、自分の、前足の、ひづめを、見ているように、見えました。

ひづめは、24年分の、ひづめでした。
24年間、ドナルドは、この場所で、立っていました。
24年間、ドナルドは、自分の種が、減っていくのを、知らずに、過ごしました。
あるいは、知っていたのかも、しれません。

——

私は、夜、舎の前で、ドナルドに、こう、言いました。

「ドナルド、お疲れさまでした。」

ドナルドは、私を、見ました。
そして、ゆっくりと、目を、閉じました。
眠ったのか、それとも、私の言葉を、了解した、合図だったのか、わかりませんでした。

——

注:
雨の音が、舎の中まで、届いていました。
雨の音は、ドナルドの、故郷の、雨の音と、同じ、なのでしょうか。
ドナルドは、生まれた時から、この国の、この動物園に、いました。
故郷を、知らない、最後の一頭、です。

「故郷を知らない者にとって、故郷とは、何か。」
これは、私が、夜の、舎の前で、考えたことです。
ドナルドにとって、故郷は、ここ、なのです。
24年間、立ち続けた、この、コンクリートの、床、なのです。

それは、それで、いいのだと、私は、思いました。

市田

— 完 —
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