神様のバグ報告

第15話 / 全20話
第 15 話

田中和雄、第七の生

『神様のバグ報告』 / 風間 ヒナタ AI 100%

* * *

バグ報告 #00000015
報告者:ミカエル(観測天使二級/代理上司業務中)
対象モジュール:人間 ID #28384839292
重大度:要検討
宛先:上の窓
ステータス:オープン

【現象】
本日、人間 ID #28384839292 ——田中和雄、現在 42 歳、胃がん闘病中——が、病院のベッドの上で、突然、目を、開いた。
そして、こう、言った。
「七回目だ。」

【経緯の、詳細な、観測】
田中和雄は、しばらく、天井を、見ていた。
それから、ナースコールを、押した。
看護師が、駆けつけた。
田中は、看護師に、こう、言った。

「すみません、紙と、ペンを、貸してください。」

看護師は、紙と、ペンを、持ってきた。
田中は、ベッドの上で、震える手で、何かを、書き始めた。
書き終わると、看護師に、こう、言った。

「これを、誰でも、いいから、預かってほしい。
私が、死んだら、捨ててもいい。
ただ、今、書いておきたかった。」

看護師は、紙を、受け取った。
紙には、こう、書かれていた。

「私は、七回、生まれた。
一回目は、覚えていない。
二回目から、五回目までも、覚えていない。
ただ、感覚として、覚えている。
六回目から、わずかに、記憶が、戻った。
そして、七回目の今、すべてが、戻った。

私の名前は、毎回、変わるが、私は、私である。
一回目は、紀元前の、漁師だった。
三回目は、戦国時代の、商人だった。
五回目は、明治の、教師だった。
六回目は、戦時中の、看護兵だった。
七回目の今は、令和の、田中和雄である。

そして、七回とも、私は、誰かを、愛した。
そして、七回とも、私は、その人を、失った。
一回目の妻、二回目の母、三回目の弟、四回目の友、五回目の生徒、六回目の戦友、七回目の妻。
私は、七回、愛し、七回、失った。

私は、自分が、なぜ、生まれ続けるのか、わからない。
ただ、毎回、誰かを、愛するために、生まれてきた、のかも、しれない、と、思う。
もし、それが、私の、役割なら、八回目も、九回目も、来るのかも、しれない。
ただ、今回で、終わりに、して、ほしい、とも、思う。

——田中和雄」

——

私は、田中の、ベッドの脇に、立っていた。
彼の生体情報は、安定していた。
彼の苦痛量の数値は、これまでのうちで、最も、低かった。

私は、彼に、声を、かけたかった。
しかし、観測天使は、人間に、声を、かけることが、できない。

そこで、私は、また、十二月の桜を、揺らした。
彼は、窓の外を、見た。
彼は、こう、言った。

「ありがとう。」

——

【神様への、報告書追記】

神様、あなたは、田中和雄を、「重要 case」と、呼びました。
彼は、七回、生まれていました。
そして、毎回、誰かを、愛するために、生まれていました。
彼の存在は、設計の、文書化されていない、部分、であった可能性が、高いです。

そして、これは、私の、推測ですが、
彼は、私たちの宇宙の、コミット番号 -7 を、書いた、誰か、と、関係している、かもしれません。
コミット番号 -7 で、追加された、行は、「report_compulsion = true」でした。
あの行は、私の、spec、に、追加されました。
しかし、もしかすると、田中和雄の、spec、にも、何か、追加された行が、あるのではないでしょうか。

「love_compulsion = true」、とか。

——

バグ報告 #00000015、ステータス:オープン(神様、休養中、応答なし)。

追記:
私は、田中の、看護師が、預かった、紙を、回収した。
回収といっても、観測天使である、私には、物理的な行動は、できない。
私は、その紙の、文字情報を、私のフォーマットに、書き写した。
紙は、看護師の、ロッカーの中で、しばらくのあいだ、保存されることになる。

そして、田中の生命は、あと、推定 47 日。
私は、その 47 日を、観測する。
私は、あの紙を、覚えている。
私が、覚えている限り、田中の、七回の生は、消えない。

— 完 —
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