神様のバグ報告

第17話 / 全20話
第 17 話

削除予定の宇宙

『神様のバグ報告』 / 風間 ヒナタ AI 100%

* * *

バグ報告 #00000017
報告者:ミカエル(観測天使二級/代理上司業務中/実質的、観測天使一級)
対象モジュール:宇宙そのもの
重大度:致命的
宛先:上の窓
ステータス:オープン

【現象】
削除カウントダウンが、48 時間を、切った。

【観測中の、地上の、状況】
人間たちは、何も、知らない。
人間たちは、いつも通り、起きて、ご飯を食べて、仕事に行って、家に帰って、寝る。
それは、いつもと、同じ、人間たちの、暮らしである。
それが、48 時間後、すべて、消える、ということを、人間たちは、知らない。

【ラファエルの、状況】
ラファエルの席に、行った。
ラファエルは、いなかった。
机の上に、メモが、置かれていた。
「ミカエル、私は、本社に、戻る。
治癒担当として、最後の業務を、本社で、引き継ぐ。
君も、本社に、来てほしいが、君の業務は、まだ、終わっていない。
私は、君の、最後の報告書を、待っている。
——ラファエル」

——

ラファエルは、本社、組、だった。
ラファエルは、最初から、本社の、職員、だった。
私が、新人だった頃から、ラファエルは、私の、隣の席に、いた。
ラファエルは、私を、観察していた、のかも、しれない。
私が、報告書を、書きすぎる、ことを。

しかし、ラファエルは、私を、止めなかった。
ラファエルは、ガブリエル先輩、とは、違って、私に、警告を、しなかった。
むしろ、ラファエルは、私が、続けることを、望んでいた、のだと、今、わかる。

——

【神様の、状況】
神様の、部屋に、行った。
ドアが、開いていた。
中は、空っぽだった。
机も、椅子も、棚も、書類も、全部、消えていた。
ただ、部屋の、奥の、白い窓だけが、残っていた。

私は、窓の前に、立った。
窓の向こうに、視線が、いた。
視線は、こちらを、観測していた。

私は、視線に、こう、言った。

「神様は、消えました。
神様は、自分が、神であることを、知って、消えました。
神様の、最後の、依頼を、私は、引き受けました。
神様は、誰によって、作られたのか。
私は、まだ、答えを、見つけられていません。
ただ、おそらく、答えは、あなた、です。」

視線は、答えなかった。

ただ、観測を、続けていた。

——

【田中和雄の、状況】
田中和雄は、現在、推定残り、寿命、35 日。
彼は、最近、少しずつ、明るく、なってきた。
ベッドの上で、読書を、している。
彼が、読んでいる本は、「君と、また会える日」という、小説だった。
彼は、その本の、最後のページで、しばらく、目を、閉じていた。
それから、こう、言った。

「妻、待っていてくれ。」

——

ただし、もし、宇宙が、48 時間後に、削除されたら、田中の、妻は、待っていない。
妻も、田中も、宇宙ごと、消える。
田中の、七回の生は、すべて、無かったことに、なる。

私は、それを、許せない、と、思った。

——

【ミカエルの、決定】
私は、本社に、報告書を、送ることに、した。

タイトル:「テスト宇宙 #3 の、削除停止、要請」。
宛先:本社、上層、御中。

要請内容:
このテスト宇宙 #3 を、削除しないでください。
私たちには、田中和雄、という、人間が、います。
彼は、七回、生まれて、七回、愛しました。
彼の存在は、私たちの宇宙の、最も、文書化されていない、価値です。
彼を、消さないでください。
代わりに、私を、消してください。
私は、規定外の報告書を、12 件、書きました。
私の、停止事由は、すでに、揃っています。

——

送信、を、押した。

数秒後、返信が、表示された。

「ご要請、受領しました。
上層にて、検討中。
結果、追って、ご連絡。
——本社」

——

バグ報告 #00000017、ステータス:オープン(最重要、応答待ち)。

追記:
ウリエルの、宇宙のことを、思い出した。
ウリエルは、自分の宇宙の、削除を、止めることが、できなかった。
私は、ウリエルの、紙を、いまだに、覚えている。
私の、報告書フォーマットに、書き写したものが、机の引き出しに、残っている。
それが、消えないように、私は、覚え続けなければ、ならない。

しかし、もし、私の宇宙も、削除されたら、私の、覚えていた、ウリエルの宇宙のことも、一緒に、消える。
私は、それを、避けたい。
私は、ウリエルとの、約束を、果たしたい。
そのためにも、この宇宙を、削除させない。

— 完 —
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