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バグ報告 #00000005
報告者:ミカエル(観測天使二級)
対象モジュール:苦痛量配分サブシステム
重大度:要検討
ステータス:オープン
【現象】
人間 ID #28384839292 ——地上での名は、田中和雄、男性、現在四十二歳——に、配分されている苦痛量が、平均値の 100 倍を超えている。
仕様書では、苦痛量は、人間ひとりにつき、おおむね均等に配分される、とされている。
【経歴の概要】
0 歳:母親死亡。
4 歳:父親、失踪。
9 歳:養護施設にて、いじめを受ける。
14 歳:唯一の友人、自殺。
18 歳:高校卒業後、就職した工場で、左手の人差し指を、機械に挟まれて、失う。
27 歳:結婚。
28 歳:妻、交通事故にて死亡。
30 歳:双子の娘、生まれる前に、死産。
35 歳:火事で家を失う。
41 歳:胃がん、判明。
42 歳:現在、闘病中。
【質問】
これは、明らかに、配分の不均衡である。
特定の理由が、あるのでしょうか。
——
神様からの返信:
「重要 case。継続観測のこと。コメント不要。」
——
「想定内」では、なかった。
これは、初めてのことだった。
神様が、ある人間について、「重要 case」と、明言した。
つまり、この人間は、何か、特別な意味を、持っている。
しかし、何の意味なのか、神様は、説明しなかった。
——
私は、田中和雄、という名前の人間を、観測することにした。
彼は、現在、ベッドの上で、点滴を、受けている。
病室には、見舞い客は、いない。
彼には、家族も、友人も、いない。
彼は、ベッドの上で、天井を、見ている。
彼は、ぽつり、と、つぶやいた。
「もう、いいよ、神様。」
——
私は、自分の権限の範囲を、超えそうになった。
彼の苦痛を、軽減する、何らかの介入を、しそうになった。
しかし、しなかった。
神様は、これを、重要 case と、呼んだ。
私が、勝手に、介入することは、できない。
——
ただし、私は、ひとつだけ、した。
彼のベッドの脇の、窓の外で、桜の枝を、揺らした。
十二月の、桜である。
本来、咲くはずのない、桜。
彼は、窓の外を、見た。
そして、わずかに、微笑んだ。
「桜が、咲いている。十二月に、桜が、咲いている。」
それから、彼は、目を閉じて、しばらく、眠った。
彼の生体情報は、安定していた。
苦痛量の数値は、わずかに、下がった。
——
バグ報告 #00000005、ステータス:オープン(継続観測中)。
追記:
神様の返信は、いつもより、0.1 秒、遅かった。
神様は、田中和雄、という名前を、検索したのかもしれない。
あるいは、何か、別のものを、検索したのかもしれない。