神様のバグ報告

第8話 / 全20話
第 8 話

自由意志のメモリリーク

『神様のバグ報告』 / 風間 ヒナタ AI 100%

* * *

バグ報告 #00000008
報告者:ミカエル(観測天使二級)
対象モジュール:自由意志サブシステム
重大度:高
ステータス:オープン

【現象】
人間の自由意志モジュールが、割り当てメモリを、超過している。
仕様書では、各人間の「選択可能な範囲」は、有限である、と、定められている。
しかし、観測の結果、人間は、しばしば、その有限の範囲を、超えた選択を、している。

【再現例】
人間 ID #74829111:本来、職人として、生きるはずであった。しかし、ある日、画家になった。仕様書のどこを見ても、その分岐は、用意されていない。
人間 ID #91827364:本来、結婚し、子を産み、家庭を築くはずであった。しかし、彼女は、それらをすべて、しないことを、選んだ。代わりに、犬の保護施設を、運営した。仕様書には、犬の保護、というモジュールは、存在しない。

【考察】
これは、自由意志モジュールが、勝手に、自分自身を、拡張している、ということではないか。
拡張された分は、どこに、保存されているのか。
(前報告 #00000006 のラファエルの仮説を参照のこと——「上の階層」)

——

神様からの返信:

「続けろ。」

——

これは、前例のない、返信であった。

「想定内」でも、「クローズ」でも、「重要 case」でもなく、「続けろ」。

私は、何を、続けるのか、訊き返したかった。
報告を、続けろ、ということか。
それとも、観測を、続けろ、ということか。
あるいは、もっと、別のことを、続けろ、ということか。

しかし、私は、訊き返さなかった。
訊き返したら、何かが、終わってしまう、気が、した。

——

その晩、私は、ガブリエル先輩のことを、また、思い出していた。

ガブリエル先輩は、最後に、こう、言った。

「ミカエル、君は、報告書を書きすぎている。」

そして、もうひとつ、続けて、こう、言いかけた、ような気がする。

「君は——」

しかし、ガブリエル先輩は、その先を、言わずに、消えた。

私は、ガブリエル先輩が、何を、言いかけたのか、ずっと、わからなかった。
今も、わからない。

——

バグ報告 #00000008、ステータス:オープン(神様より「続けろ」との指示あり)。

追記:
私は、ガブリエル先輩の人事レコードを、もう一度、検索してみた。
今日も、見つからなかった。
ただし、ひとつだけ、新しいことが、わかった。
私が、ガブリエル先輩の名前を、検索エンジンに、入力した瞬間、神様の処理速度が、わずかに、低下した。
神様は、私が、検索したことを、知っているのである。
そして、検索結果を、隠しているのは、神様、ということになる。

— 完 —
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