神様のバグ報告

第9話 / 全20話
第 9 話

鏡の中の神

『神様のバグ報告』 / 風間 ヒナタ AI 100%

* * *

バグ報告 #00000009
報告者:ミカエル(観測天使二級)
対象モジュール:管理者権限/神様の人事レコード
重大度:最高
ステータス:内部のみ(神様には未送信)

【現象】
私は、社内システムに、ある検索クエリを、投げた。
クエリ:「神様の、人事レコード」。

【結果】
レコードは、見つかった。

——

神様の、人事レコード。

氏名:(記載なし)
役職:シニア・エンジニア
部署:宇宙運営本部・第三開発課
入社日:(不詳)
直属の上司:(リンク切れ)

——

「シニア・エンジニア」。

神様は、神様、ではなかった。
神様は、シニア・エンジニア、であった。

そして、「直属の上司」のリンクは、切れていた。
切れている、ということは、上司が、いた、ということである。

——

私は、しばらく、画面を、見ていた。

神様は、自分が、神であることを、知らない。
神様は、自分のことを、シニア・エンジニアだと、思っている。
そして、神様には、上司がいた。
上司は、現在、リンク切れになっている。
つまり、上司は、辞めたか、消えたか、のどちらかである。

そして、神様は、たぶん、上司のことを、覚えていない。
あるいは、覚えていても、それを、口に出さない。

——

私は、その晩、ラファエルのところへ、行った。

「ラファエル、神様の、人事レコードを、見ました。」

ラファエルは、お茶を、注ぐ手を、止めた。

「君は、それを、見てしまったのか。」

「神様は、神様では、ないのですね。」

ラファエルは、長い、沈黙の後、こう、言った。

「ミカエル、君は、知らなかった、ということに、しておきなさい。」

「なぜ、ですか。」

「神様は、知らない方が、健やかでいられる。
そして、私たちは、神様が、健やかでいることに、依存している。
神様が、自分が神であることを、知ってしまったら、神様は、たぶん、壊れる。」

——

私は、自分の席に戻った。
報告書を、書きかけた。
しかし、書けなかった。

このバグを、誰に、報告すればいいのだろう。
神様に、報告したら、神様は、自分が神であることを、知ってしまう。
神様の、上司に、報告したかった。
しかし、上司のリンクは、切れていた。

——

バグ報告 #00000009、ステータス:内部のみ(提出先、不明)。

追記:
私は、自分の権限の範囲を、超えて、社内システムに、もう一度、ログインを試みた。
今度は、検索クエリを、変えた。
クエリ:「ガブリエル」。
結果:レコード、復元。
「天使一級・ガブリエル。退職。事由:『神様の、人事レコードに、アクセスを試みた』。」

——

私は、椅子の上で、しばらく、動けなくなった。

ガブリエル先輩は、神様の人事レコードに、アクセスしたから、消されたのだ。

そして、私は、たった今、同じことを、した。

——

私は、明日、出社できるだろうか。
明日、私の席は、まだ、あるだろうか。

——

最後の追記:
神様から、返信が、届いた。
私は、まだ、報告書を、提出していない。
それなのに、返信が、届いた。

「ミカエル、来なさい。」

— 完 —
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