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2025年9月20日(土)
担当:中村みすず
本日、立花さま、午後、お散歩に、ご一緒しました。
車椅子で、中庭まで。
中庭には、秋の、コスモスが、咲いていました。
立花さまは、コスモスを、しばらく、見つめておられました。
それから、こう、おっしゃいました。
「中村さん、私、何か、忘れているのよ。」
「何か、ですか?」
「ええ、何か。
とても、大事な、忘れ物。
でも、それが、何だったか、忘れたから、思い出せないのよ。」
——
立花さまは、笑っておられました。
笑いながら、ぽろぽろと、涙を、流しておられました。
ご本人は、涙のことには、気づいておられない、様子でした。
私は、ハンカチを、お渡し、しませんでした。
立花さまが、自分が、泣いている、ことに、気づかれないままで、いていただきたかったから、です。
——
夕方、お部屋に、戻られた立花さまは、すでに、涙のことも、忘れて、いらっしゃいました。
そして、写真立てを、ご覧になり、
「ヒナタくん、ただいま」
と、おっしゃいました。
——
備考:
立花さまが、忘れている、忘れ物は、おそらく、ヒナタくん、ではない、と、思います。
ヒナタくんのことは、忘れていらっしゃらない、から、です。
忘れているのは、もっと、別の、何か。
私には、わからないものです。
ただ、思いついたのは、忘れ物、というのは、もしかしたら、立花さまが、ヒナタくんに、出すはずだった、お返事、なのかも、しれません。
お返事を、出さないうちに、ヒナタくんが、戦争に、行かれて、帰っていらっしゃらなかった——そういう、お返事の、忘れ物。
これは、私の、勝手な想像です。
申し送り票には、書きません。
中村みすず
— 完 —
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