忘れ物

第5話 / 全8話
第 5 話

『忘れ物』 / 藤村 美咲 AI 100%

* * *

2025年10月8日(水)
担当:中村みすず

立花さま、本日、初めて、鏡の中の、ご自身に、驚かれました。

朝、洗面所に、お連れした際、立花さま、鏡を、見て、しばらく、止まっておられました。
それから、こう、おっしゃいました。

「中村さん、これ、誰?」

「立花さまですよ。」

「これが、私?」

「はい。」

——

立花さまは、鏡を、しばらく、見つめておられました。
ご自分の、顔を、初めて見る、人のように、見ておられました。

「ずいぶん、おばあさんね、私。」

「ええ、立派な、おばあさまですよ。」

立花さまは、笑われました。
笑顔は、若い頃の写真と、同じ、笑顔でした。
顔は、おばあさんの顔で、笑顔は、若いままでした。
それが、なぜか、私の、胸に、刺さりました。

——

午後、お部屋で、立花さまは、急に、こう、おっしゃいました。

「中村さん、私、いつ、おばあさんに、なったの?」

私は、答えに、迷いました。
「少しずつ、ですよ」と、答えてもよかった。
「気がついたら、ですよ」と、答えてもよかった。

しかし、私は、こう、答えました。

「立花さまは、ずっと、立花さま、ですよ。
おばあさんに、なったのではなく、ずっと、ご自分のままで、いらしただけです。」

立花さまは、しばらく、考えてから、こう、おっしゃいました。

「そう。それなら、よかったわ。」

——

備考:
立花さまは、その夜、写真立ての、ヒナタくんに、こう、おっしゃっていました。
「ヒナタくん、私、おばあさんに、なってしまったわ。あなたは、ずっと、若いままね。ずるい。」

ご自分の、おばあさんになっている、ことを、覚えていらした、のです。
覚えていらした、ことを、覚えていらした、のです。
これは、申し送り票の、診断名(中等度)に、該当しない、記憶の、しかた、です。

立花さまは、ご自分の、世界の、ご自分のルールで、覚えて、おられます。

中村みすず

— 完 —
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